〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階

東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分

東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)

ニューズレター
Newsletter

2022.04.18

公益通報対応業務従事者の指定に関する実務上の留意点 ~「従事者」の負担軽減措置についての検討~

1. はじめに-「従事者」指定の義務化がもたらすインパクト-

2022年6月1日に施行される改正公益通報者保護法(以下「改正法」という。)は、常時使用する労働者が300人を超える事業者に対して、①公益通報対応業務((改正法に定める内部公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置を採る業務を「公益通報対象業務」という(改正法11条1項)。))従事者(以下単に「従事者」という)を指定すること(改正法11条1項)((事業者が、「従事者」を指定する義務に違反した場合には、助言指導、勧告、公表の対象となる(改正法15条、16条)。))、及び、②内部公益通報((内部公益通報とは、改正法3条1号及び6条1号に定める公益通報(=役務提供先等に対する通報)をいう(「指針」第2)。))に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること(改正法11条2項)を義務付けている。
上記①に関し、改正法は、「従事者」及び「従事者であった者」に対して通報者を特定させる情報についての守秘義務を課し(改正法12条、「指針」第3)、その違反について刑事罰(30万円以下の罰金)を設けている(改正法21条)ため、「従事者」に指定された者は、守秘義務違反を理由に内部通報者から刑事告訴される等のリスクに晒されることになる。
本稿では、このような高いリスクを負う「従事者」として、具体的に誰を、どのように指定すべきかについて概説するとともに、「従事者」の負担軽減のための措置についてもあわせて検討する。
なお、「従事者」の指定に関する事業者の義務の具体的な内容は、改正法自体には規定されておらず、改正法11条4項に基づいて定められた「指針」((「令和3年8月20日内閣府告示第118号」))及び「指針の解説」((「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」))で明らかにされているため、本項では、当該「指針」及び「指針の解説」を踏まえた検討を行う。

2. 「従事者」として指定すべき者の範囲

(1) 「従事者」として指定すべき者について

「従事者」とは、内部公益通報について公益通報対応業務を行う者として事業者から定められた者をいう((当該業務を行う者であっても、事業者から「従事者」として定められていない者は「従事者」に該当せず、通報者を特定させる情報についての守秘義務(改正法12条)は課せられない(「指針」案等に関する「パブリックコメント手続において寄せられた意見等に対する回答」39頁参照)。))が、「指針」において、事業者は、(a)内部公益通報受付窓口((内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口を「内部公益通報受付窓口」といい(指針第2)、事業者はそのような内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める必要がある(「指針」第4の1(1))。))において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、(b)当該業務に関して公益通報者を特定させる事項((公益通報をした人物が誰であるかを排他的に認識することができる事項をいう(「指針の解説」5頁脚注6)。))を伝達される者を、「従事者」として定めなければならないとしている(「指針」第3の1)。したがって、事業者において「従事者」として指定すべき者の範囲は、上記(a)及び(b)をいずれも満たす者である。
具体的には、事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行うことを主たる職務とする部門(総務や法務・コンプライアンス等)の担当者を「従事者」として定める必要があるが、それ以外の部門の担当者であっても、事案により上記(a)及び(b)の要件を満たす場合には、必要が生じた都度、「従事者」として定める必要がある(「指針の解説」5頁)。例えば、公益通報対応業務を行うことを主たる職務とする「従事者」が所属する部門を所管する部門長や担当役員、当該案件について臨時に調査の委託を受けて調査を担当する者、幹部等からの独立性を確保する措置として通報窓口となったり報告を受けるなどする監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)や社外取締役、懲戒委員会の構成員、あるいは社外に設けられた外部通報窓口の担当者(弁護士等)等については、実態に照らして、上記(a)及び(b)の要件を満たす場合には、包括的にあるいは案件毎に個別に「従事者」として定める必要がある(「指針の解説」5頁及び15頁脚注28参照。)。

(2) 「従事者」として指定すべき者に含まれない者について

他方で、「従事者」として指定すべき者は、「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して」公益通報対応業務を行う者に限定されているため(上記(a))、例えば職制上のレポーティングラインにおいて、上長が、部下から、内部公益通報に該当する報告を受けた場合、当該上長は、自身が内部公益通報受付窓口を担当しているものでない限り、上記(a)の要件を満たさないから、「従事者」として指定すべき者に含まれない。
また、「従事者」として指定すべき者は、「公益通報対応業務を行う者」とされているところ(上記(a))、「指針の解説」は、「内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に、『公益通報対応業務』に該当する」としている(「指針の解説」5頁)。そのため、公益通報対応業務を主体的に行っておらず、かつ、重要部分について関与していない者は、「公益通報対応業務」を行っているとはいえないことから、たとえ公益通報者を特定される事項を伝達されたとしても、「従事者」として指定すべき者には該当しない(「指針の解説」6頁脚注8参照)((ただし、その場合であっても、内部規程に基づき範囲外共有(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為)をしてはならない義務を負う(「指針の解説」6頁脚注8)。))。

(3) ハラスメントの相談窓口の担当者について

では、公益通報受付窓口とは別にハラスメントの相談窓口を設けている事業者において、ハラスメントの相談窓口の業務を担当する者は、「従事者」として指定すべき者に含まれるか。
この点、そもそも公益通報者保護法により保護される「公益通報」に該当するためには、「通報対象事実」に関する通報である必要があるところ、「通報対象事実」とは、改正法が定める法律において罰則(刑事罰又は過料)の対象となる行為に限定されており(改正法2条)、いわゆるハラスメントは罰則の対象とならないのが通常であることから、一見すると、ハラスメントの相談窓口を担当する者は「従事者」として指定しなくてよいようにも思われる。
しかしながら、セクハラについては、事実関係次第では、強制わいせつ罪(刑法176条)などに該当する可能性がある。また、パワハラについても、事実関係次第では、暴行罪(刑法208条)や侮辱罪(刑法231条)などに該当する可能性がある。さらに、例えば、「連日、早朝や深夜に上司からメールや電話で対応を求められたのはパワハラに該当する」との通報は、「時間外及び深夜割増賃金も支払われていない」との申告を含んでいる可能性があり、その場合、割増賃金の不払いについては6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が定められていることから(労働基準法119条)、「通報対象事実」に関する通報として「公益通報」に該当することになる。
したがって、ハラスメントの相談窓口であるからといって、公益通報を受け付けるものではないから「従事者」の指定をする必要はない、と即断することはできず、上記(a)及び(b)の要件を満たすかどうかを個別に検討する必要がある。

3. 「従事者」の指定の方法

事業者は、「従事者」を定める際には、書面により指定をするなど、「従事者」の地位に就くことが「従事者」となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない(「指針」第3の2)。該当する「従事者」に対して通知する方法のほか、内部規程等において部署・部署内のチーム・役職等の特定の属性で指定することも考えられる(「指針の解説」6頁)。特定の案件について個別に「従事者」を指定する場合には、改正法12条の守秘義務を負う範囲を明確にするために、「従事者」を指定した案件、「従事者」に指定された者の氏名、指定日等を記録して管理すべき旨が指摘されている((五味祐子「公益通報者保護法に基づく指針のポイントと企業が留意すべきこと(2)-従事者の指定、法定守秘義務及び公益通報者を保護する制度について」NBL1210号49頁以下(2022年)))。

4. 「従事者」の負担軽減のための実務上の対応策

(1) 「従事者」の負担について

そもそも、内部通報に対応する担当者は、通報者のプライバシー保持と調査の必要性とのジレンマに悩まされながら、通報の受付や、事実認定や法的評価を含む調査、是正措置の検討や実行など、それ自体難易度の高い業務を担っているうえに、通報者と被通報者との板挟みとなったり、幹部や経営層から様々なプレッシャーを受けるなど、極めて大きな負担を負っている((「指針の解説」において、「実効性の高い内部公益通報制度を運用するためには、公益通報対応、調査、事実認定、是正措置、再発防止、適正手続の確保、情報管理、周知啓発等に係る担当者の誠実・公正な取組と知識・スキルの向上が重要であるため、必要な能力・適性を有する者を『従事者』として配置することが重要である」(「指針の解説」5頁脚注7)、「内部公益通報対応体制の運営を支える従業員の意欲・士気を発揚する人事考課を行う等、コンプライアンス経営の推進に対する従事者の貢献を、積極的に評価することが望ましい」(「指針の解説」11頁)などと記載されているのも、そのような「従事者」の業務の難易度の高さと負担の大きさを踏まえたものであると考えられる。))。
更に、上述のとおり、改正法により、「従事者」に指定された場合には、公益通報者を特定させる情報について守秘義務が課され(改正法12条)、その違反について刑事罰(30万円以下の罰金)が課されることとなった(改正法21条)。公益通報者は、自身が通報した事実が第三者に知られた場合には、「従事者」が通報者を特定する事項を漏洩したに違いないと考える可能性があり、その場合には、守秘義務違反を理由として、当該「従事者」に対して刑事告訴したり、当該「従事者」に対する懲戒処分を求めて内部公益通報を行うことなどがあり得る。
したがって、事業者としては、「従事者」の負担を軽減し、公益通報対応を実効化するため、「従事者」に対して十分なサポートを提供して、その負担を軽減する必要があると考えられる。
以下においては、「従事者」の負担軽減のために事業者としてとり得る措置を検討する。

(2) 「従事者」に対する教育・トレーニング

事業者は、改正法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行うものとされているが、加えて、「従事者」に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱について、特に十分に教育を行うものとされている(「指針」第4の3(1)イ)。これは、「従事者」による公益通報者を特定させる事項の取扱について、大きなリスクが存在することを反映したものと考えられる。実際上、「従事者」は、公益通報者を特定させる事項について守秘義務を負うだけではなく、内部公益通報等に対して適切に対応していく責務も負うから、守秘義務や通報者のプライバシーに配慮しつつも、調査や是正措置を実施していくという難易度が高くリスクの大きい業務を実施することを求められることになる。したがって、「従事者」に対して、例えばケーススタディを用いた研修等を含め、十分な教育・トレーニングの機会を付与することは、「従事者」の負担を軽減する観点からも極めて重要である。

(3) 「従事者」の権限・独立制の確保

「指針の解説」においては、調査・是正措置の実効性を確保するための措置として、例えば、公益通報対応業務の担当部署への調査権限や独立制の付与、必要な人員・予算などの割当等の措置が考えられるとされている(「指針の解説」7頁)。担当部署に調査権限や独立制が付与されず、また、必要な人員や予算が割当られない場合には、必要な調査、是正措置を行うことができないであろうし、また、経営層や関係者の介入により、「従事者」が適切ではない対応を強いられることも起こりかねないから、「従事者」に理不尽な負担を負わせずに、自らの職責を果たしてもらうためには、事業者としてこれらの措置を取ることが極めて重要であると考えられる。
また、「指針」においては、「組織の長その他幹部に関する事案」について、「これらの者からの独立制を確保する措置をとる」ことが求められている(「指針」第4の1(1))。具体的には、例えば、「組織の長その他幹部に関係する事案」については、社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告を行うようにするとか、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行うこと等が考えられるとされている(「指針の解説」9頁)。
「従事者」が、「組織の長その他幹部に関する事案」について、それらの者からの影響を受けながら公益通報対応業務を行わなければならないとすると、「従事者」を極めて困難な立場に追い込んでしまうリスクがあると思われる。そのようなリスクを軽減するためにも、「組織の長その他幹部に関する事案」については、外部窓口に通報させることとたうえでその報告先を社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にするとか、あるいは、監査機関が通報の窓口となる((その場合、監査機関が選任した弁護士に調査を委託することも検討すべきである(五味祐子「公益通報者保護法に基づく指針のポイントと企業が留意すべきこと(2)-従事者の指定、法定守秘義務及び公益通報者を保護する制度について」NBL1210号49頁以下(2022年))。
なお、上場企業については、コーポレートガバナンスコードの補充原則2-5①に「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべき」とされている点についても留意すべきである。))、などの対応も検討されるべきであろう。
なお、以上に述べたような事項を含め、「従事者」の組織上の位置付けや役割、業務の進め方については、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用することが重要であると考えられる。「従事者」において、自らの公益通報対応業務の進め方が、自らの独断ではなく、内部規程に沿ったものであることを関係者に対して説明できるようにしておくことは、「従事者」の負担軽減の観点からも有意義であると考えられる(「指針」第4の3(4)参照)。

(4) 外部窓口((外部窓口とは、内部公益通報受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置した場合における当該窓口をいう(「指針の解説」10頁脚注20)。))の活用

「指針の解説」においては、独立制を確保する方法の一環として、内部公益通報受付窓口を事業者の外部(法律事務所等の外部委託先や親会社等)に設置することも考えられるとされている(「指針の解説」8頁脚注15及び同9頁参照)が、外部窓口を設置することは、組織内部の「従事者」の負担軽減にも資すると考えられる。
例えば、法律事務所に外部窓口を設置し、当該事務所の弁護士を「従事者」に指定したうえで、通報者を特定させる情報についてはできる限り組織内部の「従事者」には伝えない運用とすれば((「指針の解説」では、「外部窓口を設ける場合・・・公益通報者を特定させる事項は・・・やむを得ない場合を除いて、公益通報者の書面や電子メール等による明示的な同意がない限り、事業者に対しても開示してはならないとする等の措置を講ずることも考えられる」とされている(「指針の解説」16頁)。))、組織内部の「従事者」の負担が低減されるであろう。
また、「指針の解説」においては、「内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要である」、「匿名の公益通報者との連絡をとる方法として・・・匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用システムなど)を導入する等の方法が考えられる」とされている(「指針の解説」8頁脚注15及び10頁)。これは、匿名での通報も受け付けることにより、通報に対するハードルを下げて内部公益通報対応の実効性を確保することを狙ったものであると考えられるが、組織内の「従事者」に公益通報者を特定させる事項が伝わらない仕組みを作ることは、組織内の「従事者」のリスクを軽減させるという観点からも、有意義であると考えられる。
匿名での通報・連絡を可能とするシステムを自社で導入することは必ずしも容易ではないと考えられるが、例えば筆者が所属する法律事務所では、匿名での通報・連絡を可能とするシステムの提供と弁護士による外部窓口の担当とを組み合わせた外部通報窓口サービスを提供しており((https://www.ushijima-law.gr.jp/topics/匿名の公益通報窓口システム/))、こういったサービスを利用することも検討されるべきであろう。

(5) 外部の弁護士に随時相談できる体制の確保

外部窓口を法律事務所に設置する場合でも、そうでない場合であっても、組織内部の「従事者」が公益通報対応業務に従事するにあたり、外部の弁護士に随時相談できる体制を確保しておくことは、「従事者」の負担軽減の観点から極めて重要であると考えられる。「従事者」は、経営層や関係者の利害が絡み合う中で、高度な判断を、中立な立場から行わなければならないというプレッシャーに晒されている。「従事者」が行うべき判断としては、例えば、関係者に対する「従事者」としての指定の要否、公益通報者を特定する事項の開示についての「正当な理由」の有無、「範囲外共有」への該当性の有無、通報に対する調査の要否、調査の対象や手法の選択、調査を踏まえた事実認定・法的評価、適切な是正措置の選択、等についての判断が挙げられる。これらの困難な判断の際に、「従事者」がアドバイスを求められる外部の弁護士がいれば、「従事者」の判断に外部の弁護士のいわば「お墨付き」を得ることが可能となり、社内での説明をし易くなるため、「従事者」の負担が大いに軽減されると考えられる。

5. 最後に

内部通報制度は、適切に運用されれば、組織内の法令違反や不祥事を早期に発見し、組織内での解決に繋げることができる極めて有効な制度であるが、その運用の主役となる「従事者」が安心して業務に取り組めないのであれば、内部通報制度は機能せず、ひいては、取締役や監査機関の責任も問われることになるリスクがある。改正法の施行により、担当者が萎縮してしまって、かえって内部通報制度が形骸化してしまっては本末転倒であり、本稿で検討したような「従事者」の負担軽減措置は、全ての事業者において検討されるべきであろう。

ニューズレターのメール配信はこちら

特集「改正公益通報者保護法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)